「昆虫写真家」としても知られる安川源通さんが、仲間とともにさまざまな里山体験を提供する「NPO法人里山津久井をまもる会」を立ち上げたのは2004年のこと。なぜ昆虫専門の写真家がNPOをつくり、体験事業をスタートさせたのでしょうか。そこには「里山」をキーワードにした、さまざまな思いがありました。
きっかけは、お子さんが小学生だったときに子ども育成会の役員になり、行事を企画しなければいけなくなったことでした。それまでの育成会の行事といえば、水族館に行ってみたり、遊園地に行ってみたり。
「気持ちはわかるけど、近くにいいフィールドあるのに、わざわざ遠くまで出かけるっていうのは、ちょっと違うんじゃないかなと思ったんだよね」
そこで、中野山というすぐ近くの山の自然散策を何度か企画しました。すると全校生徒約250人中、多いときで220人が参加したのだとか!
「実際に登ってみてわかったんだけど、地元の人は、意外と地元の山を知らないんですよね。それはもったいないと思って“わくわく冒険隊”っていうのを始めました。かわいい名前でしょ(笑)。散策だけじゃなくて、山のなかで道標づくりをしたり、ヒノキの伐採をしたり、鬼ごっこしたり、陣取り合戦したり。それを続けていたら、近くに同じようなことをやっている小規模な団体がいっぱいあることがわかって、それならみんな一緒にやろうよということで、NPOをつくることになりました」
そのほか、味噌づくりなどのワークショップを定期的に開催中。周辺の他団体と協力して、醤油づくりなどにも挑戦しているそう。
子ども向けの自然体験事業では、トラックのタイヤチューブを使ったチュービング川下りを実施しています。これが大人気で、毎回抽選になるほどだそう。安川さんが最初に取り組んだ「わくわく冒険隊」の活動も継続しています。先日もリバートレッキングとデイキャンプを行い、山の奥にある秘境の滝まで、川を上っていきました。地域の山を知り尽くした安川さんならではのプログラムです。
安川さんは、若い頃には、アフリカやアラスカ、アマゾンなどへ、長期に渡る撮影旅行にも出かけていました。世界中のさまざまな大自然を見てきましたが、今は「里山のような、身近なところにいる普通の昆虫が面白い」と話します。
「たとえば日本には、約3万種の昆虫がいます。実際には、その3倍の10万種ぐらいはいるんじゃないかとも言われているんですが、その1種類ずつの生態が面白いんですよ。どういうことかというと、人間と自然との関係っていうのがあってね。僕もここ数年で気がつきだしたんだけど、昆虫のほうがね、人間と一緒にいたいんですよ」
昆虫のほうが人間と一緒にいたい?
「昆虫も、人間と一緒にいたほうが便利なことが多いんですよね。蜂が巣をつくるのでも、屋根の下につくれば雨に濡れない。公園なら、人間が手入れして花を植えてやったり、見やすいように道路を整備するから、蝶にとっては餌がたくさんあるわけで、野山で探すよりずっと効率的なわけです。
なんとなく、昆虫にとっては、人が手を入れない自然のほうがいいんじゃないかと思うでしょう。でも違うんです。人間の手が入ることで環境が複雑になって、多様性を帯びてくる。里山とはそういう場所なんですね。そういうところには、珍しい昆虫は少ないです。でも、種類はすごく豊富になります。植物も増えますね。
人間だってそうでしょう。なんで東京が栄えたかっていったら、食べ物も集まるし、仕事もたくさんあるから。虫も同じで、便利で暮らしやすいところに集まるんです。僕も最近気がついたから、もっともっと、そういうことをみなさんに知ってもらいたいと思ってるんです」
長年、昆虫の写真を撮り続けてきた安川さんのお話は面白く、思わず引き込まれてしまいます。いつか大人向けの里山ガイドツアーも企画してほしいところです。
「昔の日本人は、自然と非常にうまく付き合っていました。だから、いろいろな恵みがあったんですね。たとえばクヌギの木は、20年ぐらい経つと炭や薪にするために伐るんですね。すると、必ずまた萌芽して再生し、5年ぐらいでほぼ元どおりになります。
クヌギに卵を産むカミキリムシがいるんですけど、そのカミキリムシが樹皮を傷つけるから、クヌギから樹液が出て、いろいろな昆虫が集まるんです。葉っぱも柔らかくて新鮮だから、虫も食べやすい。でも今は、燃料が化石燃料に変わって、木を伐らなくなりました。そうすると木が古くなって、カミキリムシも、硬くなった樹皮を傷つけることができなくなっちゃうんです。里山のサイクルがなくなるんですね。
日本の里山ほど、身近に自然があるところは珍しいんです。でもそれが忘れられて、生きていくための“感覚”がどんどんなくなってきている。そういう意味でも、子ども向けの自然体験は大事なんじゃないかなと思ってやっているところがあります」
知識だけではなく実際の“感覚”が大事なのだと、安川さん。農業体験や自然体験を通じて、実際に感じてもらうこと。それは子どもたちの成長にとっても大切なことだし、結果的に里山を知り、守ることにもつながっていきます。
「でも、あんまり真面目に考えちゃうと大変だし嫌になっちゃうから、遊びながら楽しんでやってますよ」
前身の活動も含めて20年以上続いてきた体験プログラムの数々は、たくさんの子どもたちに自然を体感させる機会を提供しています。そして同時に、里山の大切さと魅力を、楽しみながらもしっかりと伝え続けてくれているのです。
移住希望者も多い里山のまち・藤野。「藤野里山体験ツアー」では、地域で暮らす人々がホストとなり、身近な自然と暮らしを楽しむ個性豊かな体験プログラムを提供しています。たくさんのホストの中から、小池和代さんをご紹介します。
「こういうのは、テーマのある体験型より、見て、触れて、感じることが大切だと思います」と話す「アビオファーム」の遠藤さん。見渡す限りの山々と広大な畑という最高のロケーションで過ごせば、ただそれだけで特別な1日となりそうです。
相模湖地区を愛する女性たちが、まちを盛り上げたいと一念発起して始めた「相模湖コンシェルジュ」。女性ならではの視点で企画を立て、地域の人々も巻き込んで、相模湖の魅力を伝える、いっぷう変わった体験ツアーを提供しています。