りとりと

相模湖地区にきてもらうきっかけづくり

相模湖地区 「相模湖コンシェルジュ」
吉良奈美乃さん

相模湖地区を知ってもらい
たびたびきてもらうきっかけをつくりたい

都心から電車で1時間と気軽に行ける距離なのに、自然豊かな相模湖地区(旧相模湖町)。JR相模湖駅から歩いて7分ほどで、相模湖の湖畔にある「県立相模湖公園」に辿り着きます。じつは、電車の駅から歩いて行けるダム湖というのは、全国的に見てもとても珍しいのです。施設が充実し、アクセスもいいのに自然を味わえるというのは、相模湖地区のなによりの魅力。そんな相模湖地区の魅力を伝えたいと、体験ツアーの企画や地域イベントのサポートをしているのが「相模湖コンシェルジュ」です。20代~60代という幅広い年代の女性ばかり6名で活動しています。

結婚して相模湖地区に移り住んできたという代表の吉良奈美乃さんは、地元の学童クラブの指導員として働き始めたことをきっかけに「相模湖地区の未来について考えるようになった」と言います。暮らしているうちに大好きになっていった相模湖地区ですが、少子高齢化と人口減少によって、まちが寂しくなりつつあるのは否めませんでした。

「子どもたちと接しているうちに、このままだと10年後にまちはどうなっているんだろう、この子たちが大きくなったときに、自信をもってすてきなまちに住んでる、と思えるような地域でいられるのかなと考えるようになったんです。そうしたら、こんなに観光資源が豊富なのになぜ発展してないんだろうとか、イベントのお金の流れはどうなっているんだろうとか、いろいろなことが気になり始めました。それで、地域のまちづくり会議に参加してみたんです」

そのまちづくり会議で出会い、意気投合したのが「相模湖コンシェルジュ」のメンバーでした。

「私たちが感じている相模湖地区の良さをどうにかして活かせないかというところから、いろいろなことに縛られず、好きなこと、楽しいことをやりたいねと盛り上がりました」

コンセプトは「美と健康とおもてなし」。これは、メンバーがやりたいことや相模湖地区の特徴・魅力を突き詰めていった結果、出てきたコンセプトです。

「美といっても、自然のなかでゆったり過ごすと心身の健康につながるという意味での美です。女性ならではの目線で、相模湖地区の魅力を紹介できたらと思いました」

施設が充実し、アクセスもいいのに自然を味わえる相模湖地区。

里山体験の枠を超えたバラエティ豊かな体験ツアー

たとえば湖畔にある「県立相模湖交流センター」は、その音響の良さで、世界中からプロの演奏家が録音やコンサートにくるという、知るひとぞ知る名ホールです。音楽イベントも多く「じつは相模湖は音楽のまちなのではないか」と感じた吉良さんたちは、最初のツアー企画で、相模湖地区とも縁があったパーカッショニストを招き、森の中での楽器づくりと演奏体験のワークショップを開催しました。そして湖の桟橋の上にテントを貼り、地域の食材を生かした発酵食ランチを食べたり、森を散策したりもしたそうです。

また、バレエ衣装のレンタルで全国シェアNo.1を誇る企業「アトリエヨシノ」の本社があることから、10万着の衣装を見に行く見学ツアーも企画しました。このときは、アトリエヨシノのファンの方などが全国から集まって定員越えの大盛況となりました。もはや里山体験の枠を超えているとも言えますが「正直、内容はなんでもいい」と考えているそう。

「私たちは、よくも悪くも“こういうのじゃなければならない”っていうのがないんです。まずは自分たちが楽しんでやれること、興味があることを取り入れていく。それに加えて、活動を続けていると地域の知らなかったことをどんどん知っていくので、あれも取り入れたい、これも取り入れたいとなって、その結果、とりとめがなくなっています(笑)。でもそれでいいのかなって」

もちろん、結果的に里山体験に近いイベントもあります。相模湖の山「石老山」に市民の森をつくろうというプロジェクトがあり、それに協力している関係でイベントを開催しているのです。市民の森の予定地の散策に加え、地元の蕎麦の会に協力してもらい、手打ちそばを振る舞ったりもしています。

地域内の横のつながりづくりで相模湖の魅力を伝える

相模湖コンシェルジュの活動には「地域内の横のつながりをつくりたい」という裏のテーマもあります。そのため、市民の森やアトリエヨシノの見学ツアーのように、自分たちだけでやるのではなく、あえていろいろな人に関わってもらったり、助けてもらったりするようにしているそう。その結果、地域との連携も密になり、内容の濃いツアーが企画できるようになってきました。

「市民の森の予定地では、地権者から許可をもらえたところは、森づくりを中心になって進めている自由クラブさんが手入れをしています。森に入るとわかるんですが、自由クラブさんが手入れをしている森は、日が入ってすごくすてきな森になっているんですね。でも、そうじゃないところはボーボーに竹が生えていて、暗い。そこに行って“こっちが手を入れている森です、こっちは手が入ってない森です、どちらがいいか一目瞭然ですよね”と話をするんです。

水源地である相模湖にとって森はすごく大事なものだから、手が入ることで、こんなに日が入ってすてきな森になるということを伝えられたらいいなと。そこで森について興味をもった人は、直接自由クラブさんとつながって、より深く関わってくれてもいいと思います。でも、私たちの役目はここまで。私たちはただ、いろいろな人に相模湖にきてもらうきっかけをつくれればいいなと思っているだけなんですよね」

「どんな形でも、きてもらえれば相模湖地区の魅力は伝わるし、きただけで、大自然からのさまざまな恩恵は受けられる」と吉良さん。

「相模湖地区は大衆的なのがいいと思っているんです。自然が豊かなのに東京からも近いし、駅の近くに湖と公園があって、プレジャーフォレストっていう大きな観光施設もある。ボート乗り場や商店街の昭和な感じも大衆的で、誰がきても受け入れてくれる感じがいいところだなと。

動物行動学にもあるんですけど、自然のなかで過ごすと免疫力がアップしたり、決断力がアップすると言われています。だから湖にきて、周りを見渡して帰るだけでもいいと思うんです。特に相模湖は東京から近いですから、ふと思い立って湖畔まできて、1時間ぼーっとして帰るだけでもリフレッシュできると思うんですよね。だからやっぱり私たちが提供したいのは、相模湖を知ってもらい、たびたびきてもらうきっかけづくりなんです」